CONCEPT — KNOWLEDGE MANAGEMENT
ナレッジマネジメントとは:暗黙知と形式知、SECIモデルの意味と、社内の知識を残して使う5つの手順
ナレッジマネジメントとは、社員一人ひとりが仕事の中で身につけたコツや判断の仕方を、ほかの社員も読んで使える形に書き残し、会社の中で共有して次の仕事に生かす取り組みのことです。ベテランが口で説明できても書いていない知識を暗黙知、文書や表に書かれて誰でも読める知識を形式知と呼び、暗黙知を形式知にして置き場所に貯め、次の人が使うまでの流れを作ります。
ナレッジマネジメントとは:個人のコツを会社の知識にする取り組み
ナレッジ(knowledge)は知識、マネジメントは管理や運営を表す言葉です。ナレッジマネジメントは、社員の頭の中や個人のメモにある知識を、会社の中で探して読める状態にし、仕事の進め方や判断の質を人によってばらつかせないための取り組みを指します。
- 対象になる知識:問い合わせへの答え方、見積の金額の決め方、取引先ごとの注意点、トラブルが起きたときの最初の連絡先など、仕事の中で身につけたコツや判断の仕方です。
- 対象になりにくいもの:会社の規程や契約書のように、すでに文書として決まった場所に保管されているものは、文書の管理の話になります。ナレッジマネジメントでは、まだ人の頭の中にある知識を書き出すところから扱います。
- 説明用の仮想例:問い合わせの窓口で長く働くベテランが、返品の問い合わせを受けたら最初に購入日と注文番号を聞く、と決めている会社を考えます。本人は理由を説明できますが、どこにも書いていないので、新しく入った担当者は同じ質問を何度も受けて迷います。
ナレッジマネジメントが求められる場面は、ベテランの退職や異動が近いとき、人が増えて同じ質問に毎回答える時間が増えたとき、担当によって答えが違うと取引先から言われたときです。どれも、知識が1人の頭の中にあることが原因です。
自社のどの知識から残すかを決めたいときは、社内でよく聞かれる質問を3つ書いて送ってください。それぞれを書く型と、置き場所の候補をお返しします。
- よく聞かれる社内の質問を3つ書いて、どこに残すかを相談する → 「返品の受付はどうする」「見積の値引きは誰が決める」のように、質問の形で書いて送ってください
- 属人化とは →
暗黙知と形式知の違い
暗黙知と形式知は、ナレッジマネジメントの説明でいちばんよく出てくる2つの言葉です。暗黙知という言葉は、ハンガリー出身の化学者・哲学者・社会学者マイケル・ポランニーが示した考え方に由来します。
- 暗黙知:経験や勘のように、本人は使えているのに言葉や文書になっていない知識です。仮想例のベテランの「返品の問い合わせは購入日から聞く」は、聞かれれば言えるのに書いていない暗黙知です。電話の声の調子で相手が急いでいるかを判断する、のように、本人にも言葉にしにくい知識も含みます。
- 形式知:文書・表・図・手順書のように、言葉や数字で書かれ、ほかの人が読めば同じように使える知識です。返品の対応を「質問・答え・理由」の形で1枚に書いたものは形式知です。
- 2つの関係:暗黙知は、書き出す、話して聞き取る、横で見せてもらう、といった手間をかけると形式知になります。形式知は、読んで実際に使ううちに、その人の暗黙知になっていきます。
暗黙知を全部書き出すことはできません。相手の声の調子を聞き分けるような知識は、書いた文を読むより、ベテランの横で対応を聞くほうが伝わります。書ける知識は書き、書けない知識は横で見る機会を作る、と分けて考えます。
SECIモデルとは:知識が4つの段階を回って増えていく考え方
SECIモデルは、暗黙知と形式知が人と人の間で行き来しながら、組織の知識が増えていく流れを4つの段階で表した考え方です。野中郁次郎と竹内弘高が、1995年の英語の著書『The Knowledge-Creating Company』(日本語版は『知識創造企業』)で体系立てて示しました。SECIは4つの段階の英語の頭文字です。
- 共同化(Socialization):暗黙知を、一緒に働く経験を通して暗黙知のまま伝える段階です。新しい担当者がベテランの電話対応を横で聞く場面に当たります。社会化と訳されることもあります。
- 表出化(Externalization):暗黙知を言葉や図にして形式知にする段階です。ベテランに「最初に何を聞いていますか」と聞き、答えを1枚に書く場面です。
- 連結化(Combination):形式知どうしを組み合わせて、新しい形式知にする段階です。返品・請求書の再発行・納期の変更などの1枚ずつを、問い合わせ対応のページにまとめる場面です。
- 内面化(Internalization):形式知を読んで実際に使い、自分の暗黙知にする段階です。新しい担当者がページを読んで対応を繰り返し、聞かずに答えられるようになる場面です。
内面化で身についた知識は、その人の新しい暗黙知になり、また共同化から次の回が始まります。4つの段階を繰り返して知識が増えていくことを、知識のらせん(スパイラル)と呼ぶことがあります。
SECIモデルでは、知識が共有され、生まれ、使われる共有の場を「場(Ba)」と呼びます。中小企業に置き換えると、ベテランの横で対応を聞ける席の並び(共同化)、話して書き出す打ち合わせ(表出化)、書いたものを集める社内wikiや共有フォルダ(連結化)、書いたものを読んで実際に試す日々の仕事(内面化)が、それぞれの段階の場になります。
中小企業で社内の知識が残らない理由
中小企業では、1つの業務を1人が受け持つことが多く、その人がいれば仕事が回るので、知識を書く理由が日々の中で見えにくくなります。知識が残らない理由は、次のように分けられます。
- 書く時間が日々の仕事に押される:ベテランほど忙しく、書く時間がとれません。聞けば答えてもらえるので、周りも書くことを頼みません。
- 書いても置き場所がばらばら:チャット、メール、個人のフォルダ、紙のメモに分かれて置かれ、書いた本人以外は探せません。
- 書く型が決まっていない:人によって書き方が違い、読む人は答えがどこに書いてあるかを毎回探します。
- 更新する人がいない:書いた日から内容が古くなっていき、古い答えを見た人が間違えると、誰も読まなくなります。
次の5つの手順は、この4つの理由をそれぞれ1つずつ直す順番になっています。書く時間は「残す知識を選ぶ」で数を絞って作り、置き場所・書く型・更新は、それぞれ手順の中で1つに決めます。
知識が1人に集まって仕事が止まる状態そのものの見つけ方は属人化の記事で、引き継ぎの場面での書き方は引き継ぎ資料の作り方の記事で書いています。
社内の知識を残して使える状態にする5つの手順
説明用の仮想例の問い合わせ対応のコツで、5つの手順を順に進めます。最初の1か月は、1つの部署の知識だけで試します。
- 1 残す知識を選ぶ:部署のチャットとメールを1か月分さかのぼり、同じ質問が2回以上出ているものを書き出します。その中から、間違えると取引先に迷惑がかかるもの、知っている人が1人しかいないものに印を付け、印の多いものから10個を選びます。
- 2 書く型を決める:1つの知識を「質問・答え・理由・例外・更新担当・更新日」の6つの欄で書くと決めます。理由の欄があると、型に当てはまらない問い合わせが来たときに、読んだ人が自分で判断できます。
- 3 置き場所を1つにする:社内wikiのページ、共有フォルダの1つのファイルなど、置き場所を部署で1つに決めます。チャットで同じ質問が来たら、答えとして置き場所のリンクを返す、と決めると、置き場所が使われ続けます。
- 4 探せる名前にする:題名は、読む人が困ったときに打ち込む言葉で付けます。「返品対応について」より「返品したいと言われたとき」のほうが、検索で見つかります。同じ意味の別の言い方(返品・返却・キャンセル)は、本文の1行目に並べておきます。
- 5 更新の担当と日を決める:知識ごとに更新担当を1人決め、見直す日(例:毎年4月と10月の第1週)を書きます。読んだ人が「答えが違った」と書き込める欄をページの末尾に作り、書き込みがあった知識から更新担当が直します。
1か月試したら、置き場所のリンクを返した回数と、書き込みのあった知識の数を数えます。リンクを返す回数が増えていれば、置き場所が使われています。そこで2つ目の部署に広げます。
選んだ10個を書く型に当てはめるところで止まっている場合は、書きかけのものを送ってください。質問・答え・理由の欄の分け方を一緒に見ます。
- 書きかけの質問と答えを送って、書く型の分け方を相談する → チャットの画面の写真や、箇条書きのメモでも送れます
- 社内wikiとは →
- 業務マニュアル(手順書)の作り方 →
手順書・社内wiki・FAQとの使い分け
社内の知識を書き残す形はいくつかあり、書く知識の種類で向く形が変わります。どの形でも、置き場所を1つにして更新担当を決める、という手順は同じです。
- 手順書:始めから終わりまで順番の決まった作業(請求書の発行、勤怠の締め)を書きます。1行に1つの操作を書き、判断の分かれ目と例外を別の欄に分けます。
- FAQ(よくある質問と答え):問い合わせ対応のコツのように、質問ごとに答えが1つに決まる知識を書きます。この記事の5つの手順の書く型は、FAQの形です。
- 社内wikiのページ:手順書やFAQを部署ごとにまとめて置き、ページどうしをリンクでつなぐ置き場所として使います。
- 録画や写真:手の動きや画面の操作は、録画や写真を添えると伝わります。録画の中身は検索にかからないので、FAQや手順書のページから録画へリンクを張ります。
知識を書き残す道具は、社員が毎日開いているもの(グループウェア、チャットの中のページ機能、共有フォルダ)から選ぶと、置き場所に人が来ます。道具を新しく入れるのは、知識が増えて検索や権限の管理が要るようになってからで足ります。
ナレッジマネジメントがうまく続かない理由と直し方
ナレッジマネジメントは、最初の数週間は書く人が多くても、数か月たつと更新が止まりやすい取り組みです。止まり方ごとに、直す場所が決まっています。
- 書く人が一部の人に偏る:書いた知識が使われたことが、書いた人に伝わらないと続きません。置き場所のリンクを返したときに、書いた人の名前を添えて伝えます。
- 読む人が置き場所に来ない:チャットで聞けば答えが返ってくるので、置き場所を開く理由がありません。答える側がリンクを返すと決めると、読む人が置き場所に来るようになります。
- 古い答えが残る:更新担当と見直す日が決まっていない知識は、内容が古くなります。見直す日を過ぎた知識の一覧を、月に1回、部署の会議で確かめます。
- 書くこと自体が目的になる:書いた数を目標にすると、使われない知識が増えます。数えるのは、リンクを返した回数や、書き込みのあった知識の数のように、使われたことが分かる数にします。
AIに答えさせる社内の資料の置き場所を、知識の置き場所と同じ1か所に決める
生成AIに社内の質問へ答えさせ始めると、社員それぞれが自分のAIのチャットに社内の資料や過去の答えを貼り付け、知識がまた個人の画面の中に閉じていきます。sento.groupでは、AIに社内の質問へ答えさせる前に、AIに読ませる資料のフォルダを、手順3で決めた知識の置き場所と同じ1か所にしてもらいます。
個人のAIのチャットに貼っていた質問と答えのうち、使えたものは書く型に直して置き場所に移します。AIへの頼み方(「問い合わせ対応のページの答えだけを使って、理由の欄も添えて答えて」など)も、置き場所の1ページに書いて部署で同じ文面を使います。
AIが置き場所に無いことを答えたときは、その質問を「残す知識」の候補として書き出し、更新担当が答えを書き足します。こうすると、AIへの質問が、まだ書かれていない知識を見つけるきっかけになります。
最初の一歩として、sento.groupのTOC分析 5万円(2時間)は、2時間で行う入口の診断です。社内でよく聞かれる質問と、今それを答えている人の名前を書いたメモを持ってきてください。
よくある質問
Q. ナレッジマネジメントとナレッジ共有は同じですか?
ナレッジ共有は、知識をほかの人が読める状態にすることを指し、ナレッジマネジメントの中の一部です。ナレッジマネジメントは、残す知識を選ぶ、書く、置く、探せるようにする、更新する、までの流れ全体を扱います。
Q. SECIモデルの読み方を教えてください。
セキモデルと読みます。共同化(Socialization)・表出化(Externalization)・連結化(Combination)・内面化(Internalization)の4つの英語の頭文字をつなげた名前です。
Q. 社員が10人ほどの会社でもナレッジマネジメントは要りますか?
人数が少ないほど、1つの業務を1人が受け持つことが多く、その人が休むと答えられる人がいなくなります。同じ質問が2回以上出たものから10個を書くだけでも、休みや退職の日に止まる業務が減ります。
Q. ナレッジマネジメントのツールは何を選べばよいですか?
社員が毎日開いている道具(グループウェア、チャットの中のページ機能、共有フォルダ)から始めます。知識が増えて、検索のしやすさやページごとの閲覧の権限が必要になったら、社内wikiや専用の道具を比べて選びます。道具を移すときも、書く型を先に決めておくと、移したあとに書き方がそろいます。
Q. ベテランが忙しくて書く時間がとれません。どうすればよいですか?
ほかの人がベテランに質問して聞き取り、書く型に当てはめて書きます。書いたものをベテランに読んでもらい、違うところだけ直してもらうと、ベテランの手間は読む時間だけで済みます。
よく聞かれる社内の質問を3つ書いて、どこに残すかを相談する
社内でよく聞かれる質問を3つと、今その質問に答えている人の役割を書いて送ってください。それぞれの書く型と、置き場所の候補をお返しします。最初の一歩として、2時間で行う入口の診断、TOC分析 5万円(2時間)も選べます。