CONCEPT — DASHBOARD
ダッシュボードが使われない理由
ダッシュボードが使われない一番の理由は、画面の見た目やツールの機能ではなく、「誰が・いつ・何を決めるために見るのか」が決まっていないことです。導入直後は毎朝開かれていた画面が、数か月後には誰にも見られず、会議ではいつものExcelが配られる。この状態は、開かれない・見ても決まらない・決まっても動けない、の三つの段階に分けると、どこを直せばよいかが具体的になります。
結論:使われないのは「決める人と場面」がないから
ダッシュボードは、誰かが何かを決めるための道具です。見る人と、見るタイミングと、そこで決めることが決まっていなければ、どれだけ整った画面でも開く理由がありません。次のような様子があれば、形骸化が始まっています。
- アクセスするのは作った担当者だけで、会議では別のExcelや資料が使われている。
- 「この数字はどこから来たのか」の確認に時間がかかり、議論が始まらない。
- 指標が増え続け、どれが大事なのか誰も説明できない。
- 数字の異常に気づいても、その後に誰が何をするかが決まっていない。
どれも画面のデザインを変えるだけでは直りません。先に「誰が・いつ・何を決めるか」を決め、それに合わせて画面を絞るのが近道です。
「使われない」には三つの段階がある
使われない状態は一つではありません。どこで止まっているかで、直す場所が変わります。
- 開かれない:見る理由とタイミングが、誰の予定にも入っていない。
- 見ても決まらない:数字は並んでいるが、どの数字で何を判断するかが決まっていない。
- 決まっても動けない:判断に必要な理由・担当・元の記録へ、画面から辿れない。
改善の議論は、一段目の「見やすさ」に集まりがちです。しかし配色やグラフの種類を直しても、二段目・三段目で止まっていれば、使われない状態は変わりません。まず、いまの画面がどの段階で止まっているかを、実際の一回分の会議や業務で確かめます。
段階ごとの原因と、直し方
三つの段階それぞれに、よくある原因と、最初に試す直し方があります。
- 開かれない → 見る人・曜日・目的を一文にして、会議や業務の予定に組み込む。「毎週月曜の営業会議で、営業リーダーが今週追う案件を決めるために見る」のように書きます。
- 見ても決まらない → 判断ごとに、使う数字と判断の基準をセットで決める。基準のない数字は、眺めて終わります。
- 決まっても動けない → 一覧から元の記録(請求書、案件、問い合わせ)へ辿れるようにし、担当と期限を書き込む場所を用意する。
どの段階でも、最初に一つの判断の場面を選ぶことが共通しています。全社の画面を一度に直そうとすると、誰の判断にも合わない平均的な画面に戻ってしまいます。
原因は、画面より前の「作る順番」にある
よくある作り方は、手元にあるデータを集め、指標を並べ、画面を作り、最後に「誰が見るか」を考える順番です。この順番だと、画面は完成しても、それを使って決める人と場面が後回しになります。
「全部見えれば、誰かが使うだろう」という前提で指標が増えると、見る人は自分に関係する数字を探すところから始めなければなりません。その探す手間が、開かない理由になります。
逆に、先に「毎月第2営業日、経理担当が入金期日を過ぎた請求を確認し、営業担当へフォローを依頼する」と決めてあれば、必要な数字はかなり絞られます。
IPOAで、使う場面から逆算する
sento.groupでは、ダッシュボードの設計にIPOA(Input・Process・Output・Action)を使います。最後に起きてほしいAction(行動)から、Output(画面)、Process(集計)、Input(元データ)の順に逆算する考え方です。先ほどの請求確認を四つに分けてみます。
- Action:入金期日を過ぎた請求について、担当営業へ確認を依頼する。
- Output:期日を過ぎた請求、金額、経過日数、担当営業、前回の連絡日が並ぶ一覧。
- Process:請求と入金を照合し、期日を過ぎても入金のないものだけを抽出する。
- Input:請求番号、請求日、入金期日、入金記録、担当営業、連絡の記録。
この請求確認は説明用の仮想例です。逆算すると、全社の売上推移や部門別のグラフは、この判断には要らないと分かります。一方で「前回の連絡日がどこにも記録されていない」といった業務側の不足も、画面を作る前に見つかります。
IPOAの考え方そのものは、関連記事「IPOAとは」で、手順と記入例を使って解説しています。
作る前に「判断カード」を1枚書く
逆算を実務で回すために、画面を作る前に判断カードを1枚書きます。項目は七つです。
- 場面:いつ、どの会議や業務の中で見るか。
- 見る人:その場で判断する人は誰か。
- 決めること:見た結果、何を決めるのか。一文で書けないなら、作るのはまだ早い段階です。
- 見る数字:その判断に実際に使う数字だけ。
- 決めたあと:判断の後に誰が何をするか。
- 辿りたい情報:判断の理由を確かめるために見たい元の記録。
- 使わない指標:この画面には載せないもの。
判断カードは、ダッシュボードを依頼する側と作る側の共通の設計図になります。カードが一枚書けない場合は、ツールより先に、業務の決め方を話し合う必要があるというサインです。
カードは、会議の進行役や業務の担当者と一緒に書くのがおすすめです。作る側だけで書くと、実際の判断の場面とずれた「想像の判断」になりやすいためです。書いたカードは、画面の説明欄や会議の資料に貼っておくと、後から入った人にも画面の目的が伝わります。
既存のダッシュボードを立て直す5つの手順
すでに作ったダッシュボードがある場合も、作り直す前にできることがあります。
- 手順1 一つの会議か業務を選び、その場で誰が何を決めているかを判断カードに書く。
- 手順2 画面の各指標が、その判断に実際に使われたかを、一回分の実例で確かめる。
- 手順3 使われなかった指標は外すか、別の画面へ分ける。
- 手順4 判断のあとに必要になった情報(理由、担当、元の記録)を、画面から辿れるようにする。
- 手順5 次の回も同じ場面で使い、決まったこと・決まらなかったことを記録して直す。
一度に全社の画面を直す必要はありません。一つの場面で使われ方を確かめ、そこで効いた形を次の場面へ広げるほうが、手戻りは少なくなります。
使われているかを確かめる方法
「使われている」かどうかは、閲覧の回数だけでは分かりません。次の三つを合わせて見ます。
- 開かれているか:閲覧の記録が取れるツールなら、決めた場面の前後に開かれているかを見る。取れない場合は、会議の冒頭で画面を映しているかを確かめる。
- 決まっているか:会議の記録に、画面の数字をもとに決めたことが残っているか。
- 動いているか:決めたことに担当と期限がつき、次の回にその結果が確かめられているか。
閲覧の回数が多くても、判断の記録が残っていなければ、二段目で止まっている可能性があります。逆に、閲覧は月に一度でも、その一度で毎回決めることが決まっているなら、そのダッシュボードは役目を果たしています。
よくある誤解
使われないダッシュボードの立て直しでは、次のような思い込みが遠回りの原因になりがちです。
- 「ツールを変えれば使われる」:操作性が原因なら効きますが、決める人と場面が決まっていなければ、新しいツールでも同じことが起きます。
- 「指標は多いほど親切」:見る人にとっては探す手間が増えます。判断に使わない指標は、別の画面に分けるほうが親切です。
- 「リアルタイムで見られれば使われる」:判断が月に一度なら、更新も月に一度で足ります。更新頻度は判断の頻度に合わせます。
- 「見た目を整えれば定着する」:見やすさは一段目の「開かれない」には効きますが、二段目・三段目には効きません。
どれも、画面そのものではなく、画面を使う業務の側に答えがあるという点で共通しています。
完成の基準を「表示できた」から「決まった」へ
ダッシュボードの検収を、データが正しく表示されたかどうかで終えると、受け手が判断できない問題を見逃します。
完成の確認は、実際の一回分の業務で行います。画面を見た人が、その場で判断し、次の担当と期限まで決められたか。決められなかったなら、足りないのはデータか、画面か、判断のルールか。IPOAの四つのどこで止まったかを見ると、直す場所が具体的になります。
AIに要約や分析を任せる場合も同じです。AIの出した結果を人が判断に使えないなら、足りないのはAIの性能ではなく、Actionの定義かもしれません。
チェックリスト:作る前と、作った後
新しく作るときも、立て直すときも、次の項目を確かめます。
- 作る前:判断カードの「決めること」が一文で書けている。
- 作る前:見る人と、見る日(曜日・営業日)が決まっている。
- 作る前:各指標の定義と出どころを、一行で説明できる。
- 作る前:この画面に載せない指標を決めている。
- 作った後:決めた場面で、実際に画面が開かれた。
- 作った後:画面の数字をもとに、何かが決まり、記録に残った。
- 作った後:決めたことに担当と期限がつき、元の記録へ辿れた。
- 作った後:使われなかった指標を外すか、別の画面へ分けた。
八つすべてに印がつかなくてもかまいません。印がつかない項目が、次に直す場所です。
よくある質問
Q. ダッシュボードが使われない一番の理由は何ですか?
誰が・いつ・何を決めるために見るのかが決まっていないことです。この一文がないまま作ると指標が増え、見る人が自分に関係する数字を探す手間が生まれます。
Q. BIツールを変えれば使われるようになりますか?
操作性が原因なら改善します。ただ、判断する人と場面が決まっていないことが原因なら、ツールを変えても同じ状態が起きやすくなります。先に一つの判断場面で使われ方を確かめるほうが確実です。
Q. 指標はいくつに絞ればよいですか?
数で決めるより、その画面で行う判断に使うかどうかで決めます。一回分の実例で使われなかった指標は、外すか別の画面へ分けます。
Q. 作り直さずに改善できますか?
できます。一つの会議や業務を選び、判断カードを書いて、その判断に必要な指標と、判断後に辿りたい情報を確かめるだけでも、使われない理由の多くは特定できます。
Q. 更新頻度はリアルタイムのほうがよいですか?
判断の頻度に合わせれば十分です。週に一度の会議で使う画面なら、会議の前に最新になっていれば足ります。更新を速くするより、判断に使う数字の定義を揃えるほうが効果が出やすいことが多いです。
Q. KPIの選び方が分かりません。
ゴールの数字を、足し算や掛け算で、担当が動かせる数字まで分けていく「KPIツリー」が役に立ちます。そのうえで、画面には今回の判断に使う枝だけを載せます。
Q. ダッシュボードの設計から相談できますか?
はい。いまの画面と、それを見る会議や業務の進め方を伺い、誰が何を決めているかから、必要なデータと画面を一緒に整理します。
使われるダッシュボードを、判断の場面から設計する
いまある画面と、それを見る会議や業務を伺い、誰が何を決めるかから必要なデータを整理します。